グラフィカルアブストラクトとは?作成のポイントもご紹介

更新日: 2024.01.14

近年、論文を探したり読んだりする際に、グラフィカルアブストラクトを目にする機会が増えています。この記事の読者の方の中には、実際に提出を求められたという方いらっしゃるかもしれません。

そもそもグラフィカルアブストラクトいつ頃から使われはじめ、どのくらい普及しているのか。また、グラフィカルアブストラクトを作成する際には、どのようなことに気をつければ良いのか。

今回の記事では、グラフィカルアブストラクトを一から説明し、またグラフィカルアブストラクト作成する際のポイントについてもご説明いたします

グラフィカルアブストラクト(Graphical Abstract)とは?

グラフィカルアブストラクト(Graphical Abstract)とは、Graphical=視覚的に、Abstract=要約したもの、つまり、論文やプレスリリースなどの内容を簡潔に、視覚的に伝える、1枚のイラストです。

イラストは、文字より短時間でより多くの情報量を伝えることができるので、グラフィカルアブストラクトは一押しポイントや重要なポイントをより短時間で伝えることができます。

グラフィカルアブストラクトはどのように普及してきたか

グラフィカルアブストラクトについて書いた ”Seeing is Believing: Using Visual Abstracts to Disseminate Scientific Research” によると、グラフィカルアブストラクトは、SNSで研究内容を広める方法としてごく最近普及し始め、今急速に広まってきています。

初めてSNS用のグラフィカルアブストラクトが導入されたのは、2016年のことです。The Annals of Surgery によって、#VisualAbstract とともに投稿されました。

しかし、その最初の投稿からわずか一年で、30以上のジャーナルや機関が「グラフィカルアブストラクトの利用」を普及戦略に取り入れました[1]。

このことから、グラフィカルアブストラクトがこれから更に普及していくことは容易に想像されます。

グラフィカルアブストラクトの効果

では、具体的にグラフィカルアブストラクトにはどのような効果が期待できるのでしょうか。

一押しメッセージを印象付けることができる

メッセージを印象付けたければ、様々な角度から、様々な方法でメッセージを伝えることが大切です。

タイトルや文章でのアブストラクトに加えて、イラストを用いて読者に一押しメッセージを視覚的に伝えることで、一押しメッセージをより効果的に伝え、より強く印象付けることができます。

論文をダウンロードして読んでもらうことができる

論文がどれだけ多くの人に影響を及ぼしたのかを測る指標の一つに、論文のダウンロード数があります。

見る人が論文をダウンロードする目的としては、論文中の結果をより詳しく知りたい、実験の方法を知りたい、後日見返せるように保存しておきたいなど様々ですが、いずれにしても論文の内容をもっと知りたい、と思ってもらう必要があります。

イラストでの情報伝達は、文字だけでの情報伝達に比べて、より短時間で多くの情報を即座に伝えることができるという特徴があります。

文章でのアブストラクトは最後まで読むのに数十秒は時間がかかり、最後まで読み切らずにフェードアウトしてしまう人もいるでしょう。それに対しグラフィカルアブストは、ページを訪れた人に即座に、もっと知りたいと思ってもらうために必要な情報を伝えることができ、より効果的に論文のダウンロードへの導線を作ることができます。

また、グラフィカルアブストラクトがあることで、論文の内容の理解度が向上することが知られています[2]。よって、グラフィカルアブストラクトがあることで、より幅広い層の人の関心を惹き、論文をダウンロードして読んでもらうことが期待できます。

SNSでの宣伝効果が期待できる

TwitterやFacebookなどのSNSに論文のリンクなどの情報を投稿するときに、グラフィカルアブストラクトを追加することができます。

これらのSNSでは、文章のみの投稿よりも、見栄えのする写真やイラストを共に投稿することで、より投稿内容が見られやすくなるという傾向があります。つまり、グラフィカルアブストラクトが投稿に加わっていることにより、SNSから論文のサイトへ流入する可能性を高めることができます

また、SNSの良いところは、その投稿がリツイートやシェアされれば、自分が直接つながっていない人も含めた、より多くの人に論文の投稿を見てもらえることです。実際Twitterについては、グラフィカルアブストラクトがある論文の投稿は、文章の説明だけの論文の投稿より、8倍シェアされやすく、その結果論文のサイト訪問者が3倍になったという研究もあります[3]。

グラフィカルアブストラクト作成のポイント

実際にグラフィカルアブストラクトを作成する際には、どういったことに気をつければ良いのでしょうか。

グラフィカルアブストラクト作成のポイントをいくつかご紹介いたします

① グラフィカルアブストラクトの大前提のルール

論文中に使用した図やダイアグラムをそのまま使い回ししない

グラフィカルアブストラクトのことをある程度知っている方は当然だと思われるかもしれませんが、初めてグラフィカルアブストラクトに出会った人はよくやりがちなことで

グラフィカルアブストラクトを一から作るのは労力がかかるので、論文中の図をそのまま再使用したい、という気持ちになるかもしれません。

しかし、グラフィカルアブストラクトとは、論文をGraphical=視覚的に、Abstract=要約したものであるので、論文の一部のみに関する図をグラフィカルアブストラクトとして用いてはいけません。

グラフィカルアブストラクトは、論文の視覚的な要約だということを最初に押さえておきましょう。

② 意識すべきこと

メインメッセージは何か、キーワードは何かを意識する

グラフィカルアブストラクトとは、論文の一押しメッセージを伝えるものです。

その目的に沿ったものを作るために、論文のメインメッセージやキーワードが何なのかを意識しましょう。

読者を意識する

グラフィカルアブストラクトに限らず、人に伝えることを目的として何かを作る際には必ず意識するべきことす。

具体的には、伝える相手が研究者なのか、一般の人なのかを考えて、一般の人に向けて作成する場合は、なるべく専門用語を使わないようにしましょう。

研究者が相手であっても、専門分野が近いかどうかなどで、言葉選びをすると良いです

簡潔かつ明瞭に

一番重要と言っても過言でないポイントです。

グラフィカルアブストラクトの作成を始めると、つい沢山の情報を盛り込んだり、細かい説明を入れたくなったり、凝ったデザインにしたくなったりすることはあると思います。

しかし、これでは逆効果になりかねません。

なぜかというと、文章のアブストラクトに対するグラフィカルアブストラクトの利点は、読者がより速く処理できることにあるからです。

グラフィカルアブストラクトの目的は、論文の細かい内容を伝えることではなく、読者の興味を引くことです。内容が複雑になると読者は読み飛ばすなどしてしまい、結果として論文を読む人が減ってしまうかもしれません。

シンプルなグラフィカルアブストラクトを意識することで、論文の書き手と読み手の両方にとってより良いグラフィカルアブストラクトになります。

③ 含める情報について

論文に書かれていない情報は含まない

このポイントは、文章のアブストラクトを書く際の注意点でもあります。

グラフィカルアブストラクトは使われ始めて間もないので、まだしっかりとしたルールがありません。

しかし、あくまでアブストラクトなので、論文の内容を正確に反映し、他の論文の内容を含めるといったことはしないようにしましょう。

④ 具体的な制作方法

説明のためのテキストは必要だが、できるだけ短く

文字数が増えすぎると読むのに時間がかかり、簡潔かつ明瞭ではなくなってしまいます。文章のアブストラクトとあまり変わらなくなってしまうのです。

グラフィカルアブストラクト内のテキストはなるべく短くして、読みやすいグラフィカルアブストラクトにしましょう。

グラフィカルアブストラクトの一例を左に示します。

小腸をin vitroで再現して実験を行っているという、実験機構を描いています。短いテキストで説明されています。

左から右、あるいは上から下へ読めるようにする

この記事もそうですが、ほとんどのものは、左から右、あるいは上から下へ読まれます。

そのため、左から右、あるいは上から下の順序で読めるようなレイアウトにすることで、読者の混乱を防ぐことができます。

テキストと図を画面に配置し、それらを矢印や番号システムで繋げる

上の項目同様、読者にとって自然に読みやすい配置にすることが大切です。

そのために、例えば1.導入、2.研究内容、3.まとめといったような説明のステップごとに画面を分割し、矢印や番号をふるなどして、読む順序がはっきりわかるようにしましょう。

そうすることで、より明瞭なグラフィカルアブストラクトにすることができます。

グラフィカルアブストラクトの一例を左に示します。

深層学習を用いた音響画像の解析により、熱水噴出孔の自動検出を可能にした研究です。左側で測定の段階を示し、右側で解析の段階を示しています。

グラフィカルアブストラクトの制作を依頼する

デザインの知見がないままグラフィカルアブストラクトを制作するのは、骨が折れる大変な作業だと思いますので、専門のデザイン会社に依頼することも検討いただきたいです。

株式会社miseruでは、専門的な科学イラストの制作を行なっております。科学の研究をしていた経験のあるデザイナーが制作を担当しますので、科学的正しさと、見た目のインパクトを両立させたイラスト制作ができることが、私たちの強みです。

これまでに制作した科学イラストの事例は、こちらをご覧ください。

まとめ

グラフィカルアブストラクトの基礎的な知識や効果、普及の流れ、そして、グラフィカルアブストラクト作成のポイントについて説明しました。いかがだったでしょうか。

今後、グラフィカルアブストラクトの作成を求められる機会はさらに増えていくと思います。その際に、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです

参考文献

[1] A.M. Ibrahim, Am. J. Gastroenterol., 113 (2018)

[2] M. Smiciklas, The Power of Infographics, Que Publishing (2012)

[3] A.M. Ibrahim and J.B. Dimick et al., Ann Surg, 266 (2017)